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フロントアジャスター軽量・小型化を可能にした探究心

アパレルからの思わぬ依頼

アトランタオリンピックに日本中がわいていた1996年(平成8)8月、R&Dセンター設計部の松本典生は、東京・大田区平和島の東京流通センター内にあるトリンプ・インターナショナル・ジャパン株式会社(以下、トリンプ)の本社にいた。
本社のあるフロアは普通のオフィスと違い、アパレルメーカーらしく華やいだ雰囲気だった。後に「天使のブラ エンジェルクリック」と呼ばれるヒット商品の最初の打ち合わせだった。
それは、業界初となる谷間調整機能がついたブラジャーで、アジャスターを使ってカップそのものを中央に寄せることで魅力的な胸元をつくるというアイデアであった。
とはいえ、ただ寄せればいいというものではない。美しいバストラインを作るには左右のカップを均等に寄せることができなければならない。また、カップの間隔を緩めてリラックスモードにもしたい。そのためにはTPOに合わせて自在に伸縮を調整できる機能と目立たない外観がアジャスターには要求された。
このような難問を解決できるメーカーはアパレル業界には皆無であった。そこでまったくの門外漢の当社に話が持ち込まれたのである。
事前に製品(アジャスター)の概要を知らされていた松本は、初取引となる相手に意気込みを見せるために、「初回打ち合わせから具体的な図面を提示してみよう。左右の連動は実績のあるラック&ピニオンでいけるはずだ」と考えていた。
しかし、図面を見たトリンプの担当者・M課長は首を振った。
「図面だけではイメージがつかめませんね。見本を見てみないと。それに着け心地や美観を損なわないよう、もっと小さく薄くしてください」
これまで打ち合わせをしてきた家電や機械メーカーでは、図面とスペックがあればことが足りた。しかしアパレル業界では、現物がすべてである。松本は戸惑いを感じた。

帰りの電車の中で松本は考えていた。
「各部品の小型化は当然だが、素材となる樹脂そのものの限界を狙う必要がある」
この発想はすぐに試作へと具体化した。しかし、1案目の試作品では操作性やねじれ強度などに問題が出た。さらに、ケースの接合で新たな問題が浮上する。試作段階ではネジ止めだったが、量産には工程等の問題でこの方法は使えない。超音波溶着を使う手も考えられるが、部品がすべて同じ樹脂(ジュラコン)で構成されているため可動部まで溶着されてしまう。そこで、組立作業性も良く、結合が確認できる冷間カシメを使うことにした。
松本は3案目にはその改良型を提示し、4案目の改良で樹脂ばねを使ったものができあがった。最少構成の部品点数(ミニマムパーツ)の設計を目指した結果だった。こうして伸縮調整機能はクリアできた。
ところが手作り試作品を見たM課長は新たな要求を突きつけてきた。
「カチカチという小気味よいクリアな音が出るようにしてください」
調整していることがユーザーにはっきりと音で確認でき、なおかつ、品のある音というのがその理由であった。

小気味よい「音」を求めて

会社に戻った松本は途方に暮れた。新アジャスターのアイデアのため、過去に手がけた機構品を丹念に見直していった。その時だった。
「そうだ、樹脂ばねにこだわらず、金属ばねと音の発生場所の形状を工夫すれば、もっと良い音がするはずだ」
松本はすぐに試作品に取りかかった。カチ、カチ、カチ。その音に松本はしびれた。「これなら相手を説得できる」と確信した。トリンプ側もその出来映えに満足げだった。
1996年10月27日、微調整を加えた6案目を提出し、ここに3段階の調整機能を持つアジャスターの最終形状が決まった。最初に打ち合わせをしてから3カ月の月日が流れていた。
翌1997年4月、設計をもとに試作型がつくられた。そして細かい寸法調整を行い量産型へと進められた。
発売直前、松本とその上司、営業担当の3人はトリンプ本社を訪れた。完成した「天使のブラ」の実装テストの日である。このために用意された専属モデルの上半身には、当社のアジャスターを縫い込んだブラジャーがあった。胸元のアジャスターを操作する度に「カチ、カチ」と音が鳴る。松本はまぶしげにその胸元を見つめた。技術者として満足のいくものだった。
1998年春、当社のアジャスター付き「天使のブラ エンジェルクリック」がトリンプから大々的に売り出された。「カチ、カチ」と音がして魅力的な谷間をつくることも、胸元をくつろげることもできることから若い女性の間で評判となり、ヒット商品となった。
その後、前止めタイプの「エンジェルクリック」も加わった。生地に合わせてアジャスターの色は増え続け、最終的には100色以上になった。その発売範囲は日本だけでなく、東南アジア、アメリカ、ドイツ、ブラジル、南アフリカ等、世界各国に広がっている。

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